p.10 練習問題
1.
a. 経済学では「他の事情が等しいかぎり、人間の行動は予測可能である」ことを前提としている。
…… 正しい。経済学は化学や物理に代表されるような自然科学とは異なり、管理された条件での実験は不可能であるため、現実の現象を抽象化、単純化したモデルを分析対象とする。そのため、経済法則は精密な法則とはいえず、「傾向として平均的に成立する法則」といえ、ゆえに「他の事情が等しいかぎり」という前提表現を用いる。ここでの「人間の行動」は「経済の動き」と置き換えられるため、aは正しい。

b. 経済学では理論の中で経済現象をより適切に説明できたものが受けいれられる。
…… 正しい。経済理論は現実の経済現象をあるがままの姿で観察し、その本質的であると思われるものを抽出して、反証可能なかたちで構築され、その理論が現実の現象を適切に説明されていない限り、修正が行われ、受け入れられる理論となる。ゆえにこの文は正しい。

c. 経済学者は特定の経済理論について同意すれば、それに基づいた経済政策にも必ず同意する。
…… 誤り。政策の提唱には必ず立案者の価値判断が入る。そのため何を第一に優先するかは人それぞれ異なり、ゆえに理論には同意したとしてもその目的が自身の価値判断に適さない場合、その経済政策に同意しない事は起こりうる。ゆえにこの文は誤り。

2.
a. 貨幣や総需要が雇用や物価水準とどのような関係をもつか研究する分野はどれか。
ミクロ経済学は家計や企業などの個々の経済主体を分析し、そこから市場での取引の様子を明らかにする分野である。そのためこの問には適さない。
マクロ経済学は経済全体を分析対象とし、所得や雇用量などの主要な集計量の関係を取り扱う分野である。貨幣、総需要、雇用、物価水準などは主要な集計量に含まれるため、この問に該当する。
③ 規範的経済学は分析対象による分類ではなく、方法論上の分類であり、望ましい経済を構築するためには、何がなされるべきかを分析する方法理論をとる分野である。ゆえにこの問にあるような分野ではない。そのためこの問には不適。
④ ①と③が該当しないため、誤り。
⑤ ②が該当するため、誤り。


b. 経済学の3部門(経済史、経済理論、経済政策)のうち、主観的価値判断が入らざるをえないものはどれか。
① 経済史は経済現象の変化を時間的順序において具体的に記述する部門であるため、客観的に行なわなければならない部門である。ゆえに誤り。
② 経済理論は経済現象から一般化・抽象化された経済法則を導く部門であり、そこに主観的価値判断が入る余地はなく、ゆえに誤り。
③ 経済政策は上記2つの部門から得られた知識を実際の政策に応用する部門であるが、政策決定には必ず立案者の価値判断が入る。これは人それぞれ何を重視するかが違うためである。ゆえにこの問に該当する。
④ ①と②が該当しないため、誤り。
⑤ ③が該当するため、誤り。

c. 経済学が自然科学と異なる点として不適当なものはどれか。
① 統御された実験が不可能である。:社会科学である経済学は人間をその対象としているため、統御された実験は不可能である。反対に自然科学では管理された条件の中で実験を行なう事が出来る。ゆえにこの文は異なる点として適当。
② 数学的手法が使えない。:経済学で扱う価格や取引量などの多くの変数は量的な把握が可能であり、経済問題の多くも制約条件付きで極大化・極小化問題として定式化が可能であるため、数学的手法は経済学に使用できる。また自然科学も数学的手法が使えるため、この点における異なる点はない。ゆえにこの文は不適当。
③ 人間の学習効果が無視できない。:経済学は人間を対象とする社会科学、「観察者も人間、観察対象も人間」であるため、過去の経験を生かすという人間の学習効果を無視する事は出来ない。自然科学において人間の学習効果が影響を及ぼす事はない。ゆえにこの文は異なる点として適当。
④ すべて該当する。:①、③は適当であるため、誤り。
⑤ すべて該当しない。;②が不適当であるため、誤り。

3. 次の命題は、経済現象にみられる「合成の誤謬」の例である。なぜ「誤謬」となるのか説明せよ。
 a. 一個人であれば、訓練を受けて技術を取得したり低賃金を甘んじようとすれば、自分の失業状態を解決する事が可能かもしれないが、社会全体の失業者が同じ方法で失業問題を解決する事は必ずしもできない。
…… 1失業者がそのような努力により、職を得て失業状態から抜け出す事は可能であるが、社会の雇用者数の絶対値が増加しない事には、すべての他の失業者が同様の努力を行なったとしても、失業者数は変化しない。

b. 1企業が商品価値を引き下げて販売量を拡大する事によって、利潤を増大させることができても、同じ製品を扱っている全企業が商品価値を引き下げても利潤は必ずしも増大しない。
…… 1企業の場合、価格の引き下げにより、他企業の同じ商品に対して価格的に優位に立つ事ができ、そのマーケット・シェアを奪い、価格低下による減収を上回る販売量の増大が可能となり、利潤の増大が行なえる。しかし、全企業が価格を引き下げると、企業間に価格差には変化が生じないため、それによって総需要量が飛躍的増大を見せない限り、企業の利潤は増大しない可能性が高い。

c. 1住民が、川にゴミを捨てても問題は起きないかもしれないが、地域住民がすべて同じようなことをすれば社会問題となる。
…… 1住民がゴミを捨てた事による川の汚染の度合いは無視できるレベルかもしれないが、地域住民がそれを行なった場合、川の汚染は極めて進み、何らかの問題となる可能性は高い。

d. 1家計が貯蓄意欲を高めて貯蓄額を増加させることはできても、すべての家計が貯蓄を増加させたいと思っても、経済全体の総貯蓄額は増加しない。
…… すべての家計が貯蓄を増やすと、消費が減少し、経済全体の総需要は減少する。そのため全体として生産活動は縮小し、所得の減少が起こる。そのためその水準における総貯蓄は増加しない。


p.19 練習問題
1.
 a. 家計の欲望を直接に充足させる財を消費財、将来の欲望充足に間接的に貢献する財を資本財という。:正。資本財は直接消費して欲望を充足する事は出来ないが、最終的には消費財を作り出す事によって、後の欲望充足に間接的につながる。
 
 b. 機会費用とはある財または用役の追加的な1単位を生産するために必要な貨幣費用である。:誤。ある財の生産に伴って失わなければならない他の財の量を、当初の財を得るための機会費用という。

 c. 右上がりの直線で表された生産可能性曲線は、機会費用が逓増することを示している。:誤。右下がりの直線で表された生産可能性曲線は機会費用が一定である事を示している。

d. 資源の有限性と、欲望の非飽和性より、経済問題が生じる。:正。人間の欲望には限りがないため、有限な資源をどのように配分するかという問題が発生する。そしてこれが経済問題である。
e. 現代の経済にみられるような高度の特化と分業は、交換の媒体物としての貨幣が無ければ、不可能である。:正。貨幣がない物々交換経済では、欲望の両面一致が起こらないと取引が行なえず、円滑に経済活動は進まない。それゆえ、現在の市場制度のような展開は見られない。

2.
 a. 生産可能性フロンティアに関する記述で正しいのはどれか?
  生産可能性フロンティアの概念は、生産の達成可能な領域と達成不可能な領域とを境界づける事により、「希少性の存在」を明示し、効率的な生産を行なう限り、ある財を余計に得ようとすると、必ず他の財を減らさなければならないこと、「機会費用の存在」を明らかにし、さらにフロンティア上のどの点を選択するかという問題は、何をどれだけ生産するかという問題、「選択の必要性」を表している。ゆえに生産可能性フロンティアは希少性、機会費用、選択の必要性を表したものであるため、「機会費用」について抜けている①、「希少性」について抜けている③、「選択の必要性」が抜けている④が誤り。3点をしっかりおさえている②が正しい。
 b. 経済成長に関する記述で正しいのはどれか?
  「失業者の雇用」や「遊休施設の利用」は資源配分が非効率的であったものが、フロンティア上に行くというだけで経済成長とは表現されない。しかし「労働力の増大」、「資本の蓄積」、「技術革新」では生産可能性フロンティア自体が上昇するため、経済成長が起こる。必要な3つを含むのは③であるため、③が正しい。

3.
a. b. f. 下図参照。b. 生産フロンティアの外側なので生産できない。










c. 5,000台の自動車
d. 自動車の増産によってパンの減産は起こらないので機会費用はゼロ。
e. 6000台の自動車。パンの生産を増やすと、機会費用が増加する。これは資源の不完全な互換可能性と、両産業の生産が労働や土地を相違なる比率で必要としているという事実によるため。生産可能性曲線が右上に凸であることを示している。