第十二章 練習問題 P.161
1.以下の項目のうち、国内総生産に含まれないものを記号で示せ。
a.親からの遺産 b.農家の自家消費用のコメ c.失業保険 d.家政婦の家事労働 e.主婦の家事労働 f.所有者が居住している住宅から得るサービス
 国内総生産は、基本的に生産活動によって新しく付加された物、市場で取引が行なわれている財・サービスを対象としている。b.は生産活動によって新しく付加された物であり、d.は取引によって行なわれるサービスの提供、f.は例外として含まれる持ち家の帰属家賃と考えられる。ゆえに答えは、a. c. e. の3つ。

2.次の文中の下線部分に適当な言葉を入れよ。
①生産額 ②付加価値 ③最終生産物 ④分配面 ⑤三面等価の原則 ⑥被雇用者所得 ⑦間接税 ⑧補助金 ⑨市場価格

3.次の記述のうち、正しいものはどれか。
a. 国内総生産は、一定期間に生産された付加価値の合計であり、固定資産減耗は控除される。
 … 誤り。固定資産減耗が控除されるのは、国内純生産であり、国内総生産には固定資産減耗は含まれる。
b. 日本の国内総生産は、アメリカ人ピアニストが日本で演奏活動を行って獲得した所得を本国へ送金したものを含んでいる。
 … 正しい。国内総生産は、その国の「国内」において一定期間の間につくり出される財・サービスの事をさすため、外国人によってつくり出された財・サービスであっても国内総生産には含まれる。
c. GDPデフレーターは基準年の生産量をウエートとして算出される物価指数である。
 … 誤り。GDPデフレーターは、比較年の生産量をウエートとして算出する。
d. 国内総生産には、帰属計算対象として持家住宅、現物供与(社宅、通勤定期、食券など)、社会保障負担(給与)および農家の自家消費が含まれている。
 … 正しい。国内総生産は、原則として市場で取引されるものに限られるが、農家の自家消費用の農産物や持家の帰属家賃といった帰属計算にかかわるものは例外として含まれる。
e. 在庫投資は、最終需要ではないから国内総支出には含まれない。
 … 誤り。在庫投資は国内総支出に含まれる。

4. 2財を生産している1国経済を考える。この経済の1985年の名目GDPが1,500で、その40%が第1財の生産によるものであった。1990年の名目GDPは20%増加したが、両財の名目GDPに占める割合は変化しなかった。また、この間に第1財の価格は20%上昇し、第2財の価格は8%上昇したとする。以上の想定のもとで以下の問いに答えよ。
a. 1990年の名目GDPはいくらか。
 … 1,500×1.2=1,800
b. 1985年を基準年とした場合、1990年の実質GDPはいくらか。ただし、1985年の両財の価格は共に1とする。
 … 1990年の第1財生産額は1,800×0.4=720、第2財生産額は1,800×0.6=1,080となる。しかし、第1財の価格は20%上昇しているため、産出量は720÷1.2=600、第2財の価格は8%上昇しているため、産出量は1,080÷1.08=1,000となる。ゆえに1990年の実質GDPは、1×600+1×1,000=1,600となる。
c. 1985年を100としたとき、1990年のGDPデフレーターを求めよ。また、1985年から1990年の間のGDPデフレーターの上昇率は何%か。
 … GDPデフレーターは名目GDP÷実質GDP×100によって出る。1990年の場合、1,800÷1,600×100=112.5となる。ゆえにその上昇率は100から112.5への上昇なので12.5%である。

5. 1国経済が家計部門、企業部門、政府部門、海外部門で構成されており、政府部門と海外部門の所得と支出が、次のように与えられている。いま、家計部門が37の貯蓄超過であるとすれば、企業部門の投資超過はいくらになるか?
 政府支出:45 税収:37 輸出:35 輸入:37
 … 国民経済計算で、民間部門の貯蓄超過(S−I)は、財政赤字(G−T)と輸出超過(X−Q)の和に等しい。
 ゆえに貯蓄超過=(45−37)+(35−37)=6
また貯蓄超過=家計部門の貯蓄超過−企業部門の投資超過であるため、
 企業部門の投資超過=37−6=31となる。

6. 次の表は1985年度の国民経済計算(新SNA)の統合勘定における国内総生産勘定と国内総支出勘定の主要項目である。(ただし「統計上の不突合」は被雇用者所得および営業余剰に加えて調整した)。これらの数字を用いて、以下の問いに答えよ。
 被雇用者所得 176,707.3 営業余剰 82,391.9 固定資産減耗 44,376.3 
間接税 24,380.6 補助金 3,697.1 民間最終消費支出 190,575.4 
政府最終消費支出 31,038.0 国内総固定資本形成 89,208.9
在庫品増加 2,076.3 財・サービスの輸出 44,497.5 財・サービスの輸入 33,237.1
海外からの要素所得 5,648.9 海外への要素所得 4,437.3
 (単位:10億)
a 国内総生産GDP)を求めよ。
GDP=被雇用者所得+営業余剰+固定資産減耗+(間接税−補助金)より、

GDP=176,707.3+89,208.9+44,376.3+(24,380.6−3,697.1)=324,159.0
 つまり、324兆1,590億円となる。
b. 国民総生産(GNP)を求めよ。
 … GNP=GDP+海外からの要素所得―海外への要素所得 なので
 GNP=324,159.0+5,648.9−4,437.3=325,370.6
 つまり325兆3,706億円となる。
c. 国内純生産(NDP)を求めよ。
 … NDP=GDP−固定資産減耗 であるので、
 NDP=324,159.0−44,376.3=279,782.7
 つまり、279兆7,827億円となる。
d. 要素費用表示の国民所得を求めよ。
 …要素費用表示の国民所得=被雇用者所得+営業余剰+海外からの要素所得−海外への要素所得 であるから、
 要素費用表示の国民所得=176,707.3+82,391.9+5,648.9−4,437.3=260,310.8
 つまり、260兆3,108億円となる。
e. 経常海外余剰を求めよ。
 経常海外余剰=財・サービスの輸出−財・サービスの輸入+海外からの要素所得−海外への要素所得 であるので、
 経常海外余剰=44,497.5−33,237.1+5,648.9−4,437.3=12,472.0
 つまり、12兆4,720億円となる。

7. 次の質問に答えよ。
a. GNPとGDPの違いを説明せよ。
 … GNPは1国国民が一定期間につくりだす付加価値総額であり、場所の指定はない。一方、GDPは1国国内で一定期間につくりだされた付加価値総額であり、自国民であるという指定がない。両者は、GNP=GDP+海外からの要素所得―海外への要素所得 という関係にある。
b. パーシェ指数とライパイレス指数の違いを説明せよ。
 … パーシェ指数は、比較時点の数量をウエートとして計算した指数であり、ラスパイレス指数は、基準時点の数量をウエートとして計算した指数である。

第十三章 練習問題 P.171
1. 次の記述の正誤を示し、その理由を記せ。
a. 限界消費性向と限界貯蓄性向の和は1に等しく、限界消費性向の逆数は乗数である。
 … 誤り。限界消費性向と限界貯蓄性向の和は1に等しいが、乗数は限界貯蓄性向の逆数。

b. 総需要が消費と投資からなる単純な経済モデルにおいて、投資と貯蓄が等しいときは必ず完全雇用が達成される。
 … 誤り。投資と貯蓄均衡は生産物市場の均衡条件であって、完全雇用を保証するものではない。
c. 限界消費性向が0より大きく1より小さければ、(0<c<1)、デフレ・ギャップに比べて現実の均衡所得水準と完全雇用国民所得水準との差は大きい。
 … 正しい。総需要曲線(C+I)の傾きが限界消費性向で、1よりも小さい事からそうであることが分かる。
d. 所得がゼロのとき消費額もゼロになる。
 … 誤り。基礎消費分があるためプラスとなる。
e. 限界消費性向が大きい(ただし1未満の範囲で)と投資の乗数効果も大きくなる。
 … 正しい。投資乗数は(1−限界消費性向)の逆数であるため、分母となる(1−限界消費性向)が小さければ小さいほど、投資乗数は大きくなる。
 
2. 次の文中の下線部分に適当な言葉を入れよ。
a. 投資を一定にしたとき、国民所得が均衡国民所得水準よりも小さいならば、①総需要 は国民所得すなわち総供給を②上回る。その経済がまだ完全雇用状態に達しておらず、生産余力があるとすれば、企業は生産を拡大し、その結果、国民所得は③均衡国民所得水準 に近づく。
b. 実現されている完全雇用国民所得において、総需要が総供給を上回っている場合、この上回っている過剰な需要を④インフレ ギャップと呼ぶ。このギャップが在続する限り、⑤物価 が上昇する。これを解消するためには、総需要関数を⑥下方 にシフトさせればよい。
c. 民間部門のみからなる単純な経済を考える、この経済の消費関数はC=0.8Y+20で近似できるものとする。投資支出が50であればこのときの均衡国民所得は⑦350 となる。いま、投資支出が10増大したとすれば、新しい均衡国民所得は⑧400 となる。すなわち、所得の増大は投資の増分の⑨5 倍の規模に達する。その理由は、投資の増加によって発生する追加的所得と消費との間の波及効果である。一般的に、ここでの投資支出のような独立支出の増大は一定倍数の所得の拡大をもたらし、その倍数を⑩乗数 と呼び、その大きさは1から⑪限界消費傾向 を引いたものの逆数に等しく、換言すれば⑫限界貯蓄性向 の逆数に等しい。

3. 経済が次の体系で示されるとする。以下の問に答えよ。なお、I=80、G=30であるとする。
 所得均衡式 Y=C+I+G
 消費関数  C=20+0.9Y
 Y:国民所得 C:消費支出 I:投資支出 G;政府支出
a. 均衡国民所得を求めよ。
 … Y= C+I+G=20+0.9Y+80+30
Y=1,300 となる。
b. 投資乗数を求めよ。
 … Y=20+0.9Y+I+G
    (1−0.9)Y=(20+I+G)
  (1−0.9)△Y=△I
 投資乗数 
 となる。
c. 国民所得を100増やすには政府支出をいくら増やせばよいか。
… bと同様にして(1−0.9)△Y=△G △Y=100より△G=100

4. 国民経済が次のような関係式で記述されている。このとき、以下の問に答えよ。
 民間部門の消費関数 C= cYd+C0
 (Yd:可処分所得、c:限界消費性向、C0:基礎消費)
 民間部門の投資関数 I=I0 (I0:定数)
 政府支出関数    G=G0(G0:定数)
 租税関数      T=tY(t:限界税率、Y国民所得

a. 均衡国民所得を求めよ。
… 均衡条件は、Y=C+I+G
  ゆえに、Y=(cYd+C0)+I0+G0
       =c(Y−T)+C0+I0+G0
       =c(Y−tY)+C0+I0+G0
  均衡国民所得
b. 政府支出の増加によってもたらされる国民余得の増加を決める政府支出乗数を求めよ。
… aの式を全微分すると、△C=△I=0

政府支出乗数:
c. 上記のモデルで、c=0.8、C0=50、I0=200、G0=150、t=0.25と与えられた場合、均衡国民所得はいくらになるか。

… aより、
d. また、このとき政府支出が150から190へ増加すれば国民所得はどれだけ増加するか?
… bより、
e. 限界税率が0.25から0.3に引き上げられた場合、国民所得はどれだけ増加または減少するか。
 … aの式に0.25、0.3を代入するとそれぞれ、Y=1,000、Y=909.1という値となった。よって△Y=909.1−1,000=−90.9となる。よって国民所得は90.9減少する。

5. 次の設問に答えよ。
a 均衡予算乗数の定理について説明せよ。
… 予算を均衡させながら、歳出、歳入の規模を引き上げたときの乗数効果は1、すなわち予算規模の拡大分だけ所得を増やす、というもの
b 経済における自動安定化要因は景気後退期にはどのような働きをするのか。具体的な自動安定化要因を2つ挙げて説明せよ
 ①累進所得税法人税は、景気後退期に国民所得が減少すると、政府支出に比して、政府租税収入を減少させ自動的に赤字を生みだす傾向にある。つまり、国民所得が減少する局面で需要を支え、その減少を緩和させる。
 ②国民所得、雇用の減少が起こるとき、失業手当等の政府の移転所得が自動的に増大し、その減少を緩和する。
c 節約のパラドックスを簡単に説明せよ
 … 家計の貯蓄というミクロ的な行動は、マクロ的に貯蓄総額を増加させるとは限らない。特に投資が所得水準に依存するケースでは、かえって貯蓄は減少する。それは、同一の所得水準の下で人々が貯蓄意欲を増大させると、総需要を構成する消費支出が減少し、有効需要の原理によって国民所得も減少する。それによって、誘発投資も減少し、均衡点において投資と均等になる貯蓄も減少せざるを得ない。